数分後、シャロンはウィルの部屋に押しかけていた。
ウィルは全身から面倒だというオーラを放ちながら、大げさにため息をつく。
「3分だけ時間をあげる。ほら、さっさと質問して」
「せっかちじゃのう。急用でもあるのか?」
「早く作曲に戻りたい。はい、2分50秒」
ウィルの言葉を受け、シャロンは彼女が『チームフリフリ』の作曲担当者だったことを思い出す。
「すまんすまん、すっかり忘れていた。手短に済ませよう」
シャロンはぴったり3分使い切って、これまでの経緯を話した。
「というわけで、チームメンバーたちに、それぞれの恋心を聞いて回っているわけじゃ」
「なるほどね。私の答えは簡単。私は冥王以外に何もいらない。冥王が私の全て。以上」
「相変わらずの溺愛っぷりじゃな。しかもさらっと言ってのける」
「当たり前のことを言ってるだけだから。羞恥心なんてないわ」
シャロンの脳内に真っ赤になりながら恋を語るティセが思い起こされ、まったく違う2人の反応に頷く。
「人の数だけ恋の形も違う、とはよく言ったものじゃな。参考になった」
「せっかく時間を作ってあげたんだから、いい歌詞を書きなさいよ」
「うむ! ウィルの作曲も楽しみにしているぞ」
「期待されても嬉しくない」
「そういえば、冥王もウィルの曲を楽しみにしていたな」
「任せて。冥王のために頑張る」
ころっと変わった態度に彼女らしさを感じつつ、シャロンはウィルと別れた。
■
シャロンがクリスを見つけたのは、学園の中庭だった。
花壇の世話が一区切りついたタイミングを見計らい、今までの経緯を説明する。
「ええっと……つまりわたくしの恋心について、お話すればよろしいのでしょうか?」
「無理にとは言わんがな。しかし、教えてくれると助かる。作詞の参考になるからな」
「わかりました……これもチームのため。恥ずかしいですが、お話しましょう」
クリスは軽く咳払いをすると、ゆっくりと口を開いた。
「わたくしにとって恋とは、とても刺激が強いものです。日々の活力になる一方、溺れてしまう可能性だって秘めています」
「よく『邪念撲滅』とか言いながら滝に打たれておるしな」
「はい。滝行の目的は、恋に溺れそうになった自分を戒めるためです。そうしないと一日中冥王様のことを考えてしまい、何も手につかなくなってしまうので……」
「それほどまでに、クリスの想いが深いということじゃろう。冥王は幸せ者だな」
シャロンが微笑ましく思っていると、急にクリスが身悶えし始めた。
「うううっ……冥王様のことを考えていたら、また頭がいっぱいに……くっ、このままで恋心が、邪念があふれて!」
クリスは回れ右をして、シャロンに背を向ける。
「滝に打たれてきます。邪念撲滅、邪念撲滅!」
「まあ待て、そう慌てることもなかろう」
シャロンはクリスの肩に手を置き、こちらへ向き直させる。
「自分でも言っておっただろう? 恋は日々の活力になると。撲滅してはもったいないと思わんか?」
「ですが、このままでは恋に溺れてしまいますし……」
「フェスの練習で発散するのじゃ。歌でも踊りでもなんでもいい、滝に打たれてもフェスには勝てんぞ」
「確かに……今なら素晴らしいメロディが思いつきそうです。ウィルさんに相談してきます」
「うむ! 我も作詞を頑張るぞ。次はアナに話を聞いてくる」
「アナ先生でしたら、保健室にいらっしゃいますよ」
シャロンはクリスに礼を言い、保健室に向かう。
■
保健室に到着したシャロンは、アナスチガルに今までの流れを説明した。
話を聞いたアナスチガルは、興味深そうに目を輝かせる。
「いわゆる恋バナですね。いいですね、お肌がツヤツヤしてしまいます」
「アナは恋愛話が好きなのか?」
「ええ、胸がキュンキュンしてしまいます。とはいえ普段はカウンセラーとして人の話を聞くことが多いですから、自分の恋愛を語った経験はあまりありません」
「では今日は思う存分、語ってもらうとしよう」
シャロンはノートを開き、メモを取る姿勢を取る。
「アナも冥王のことが好きだと聞くが、具体的にどこが好きなのだ?」
「人としての有り様、でしょうか。《天上人》としての人生の厚みや、人々に対する慈悲深い姿勢はとても参考になります。一方で、ユーモアたっぷりにわたくしたちに接してくださいますし、バランス感覚に優れた方だなとも思います」
「思いの外、冷静に分析しているのだな」
「わたくしにとって恋人とは、ずっと一緒に寄り添い、苦楽を分かち合いたい相手ですから。熱に浮かされるばかりが恋愛ではありませんよ」
「我と近い考え方のようだ。ま、我は対等どころか、冥王を追い越そうと思っているがな」
「ふふっ、壮大な夢ですね。応援していますよ」
「うむ。ま、その前に歌詞を完成させなくてはな。皆に協力してもらったのだから、いい詞を書き上げたい」
「シャロンが思ったこと、感じたことをストレートに記せば、多くの人に響く歌詞になると思います。頑張ってください」
アナスチガルのエールに、シャロンは親指を立てて答えた。