「うむうむ。今日のケーキも美味い! 星3つじゃ!」
昼下がりの食堂で、シャロンは尻尾を揺らしながらスイーツを食べていた。初めの数口は笑顔だったが、すぐに眉間に皺が寄る。
「しかしのう……いくら甘味を食べても、歌詞は思い浮かばぬ。どうしたものか」
「何か悩み事ですか?」
たまたま食堂に立ち寄っていたティセが向かい席に腰を下ろした。藁にも縋る思いで、シャロンはティセに助けを求める。
「我が作詞の担当になったことは知っておろう?」
「ええ、同じチームですから。大役、お疲れ様です」
シャロンとティセは共に『チームフリフリ』に所属し、《アイリス》フェス優勝を目指している。
フェスではオリジナル曲を披露することになり、シャロンが作詞、作曲はウィルとクリスが担当していた。
「曲のテーマは、恋する乙女の可愛さ、初恋の甘酸っぱさ……でしたよね」
「うむ。ケーキを食べながら考えていたのだが……何も思いつかん!」
「恋がテーマですから、シャロンの実体験を歌詞に込めてみてはいかがでしょう? 思考のきっかけにはなると思います」
「となると、冥王への気持ちを書けばいいのか。それならばできる気がする!」
シャロンはペンを握り、ノートに文字を書き連ね始めた。
「我は冥王の圧倒的な強さに惹かれた。特に冥界では、未だに傷1つつけられん」
「強さに惹かれるのは、ドラゴニアの本能でしょうか?」
「だろうな。いつか冥王に勝つことが、我の夢じゃ」
「ええっと……それは恋心というより、ライバル心のような……」
「我にとってはどちらもあまり変わらん。寝ても覚めても相手のことを考え続けるという意味ではな」
「なるほど。私にはない考え方なので、とても興味深いです」
「ティセはどうなのだ? 冥王のこと、好いているのだろう?」
「ど、どうと言われましても……」
ティセは耳の先まで赤くなりながら、しどろもどろになって返した。
一方のシャロンは自然体のまま、さらに質問を重ねる。
「我の気持ちを書いただけでは、ドラゴニアからしか共感を得られん。より多くの意見を参考にしたいのじゃ」
「くっ……理由が真面目なだけに、断りづらいですね」
ティセの心の中で、羞恥心と思いやりが天秤にかけられる。
わずかに天秤が傾き、ティセは深く息を吐き出した。
「わかりました。特別に冥王様への気持ちをお教えします。ですが、絶対に茶化さないでくださいね」
「当たり前じゃ。我もその程度の礼儀はわきまえておる。他言もせんよ」
シャロンが力強く言い切ったため、ティセも躊躇いがちに口を開いた。
「私にとって冥王様とは……とても大きな存在です。まるで大樹のように、いつでも優しく見守っていてくださいます。だから私も安心して、冥王様に素直な心を見せられるようになったのです」
「我とはずいぶん違う感覚じゃな。同じ人物を見ているはずなのに、興味深い」
「人の数だけ、恋の形も違うと思います。ウィルやクリスにも聞いてみてはいかがでしょう?」
「そうじゃな! メンバーの恋心を知れば、より『チームフリフリ』らしい歌詞が書ける気がする」
シャロンはノートを閉じると、勢いよく立ち上がった。
「ティセ、アドバイス助かったぞ」
「どういたしまして。困ったことがあればいつでも相談してください。『長命の友』として、シャロンの力になりますよ」
シャロンもティセも異種族であるため、人間よりも圧倒的に寿命が長い。それゆえ、シャロンは今まで多くの別れを経験してきた。ティセはシャロンの支えになるために寄り添い、長命の友としてたびたび行動を共にしている。
「ティセの言葉、嬉しく思うぞ。ありがとう!」
シャロンはカラッとした笑みを浮かべた後、他のメンバーを探しに行った。