数日後、シャロンは『チームフリフリ』のメンバーを集め、机の上に歌詞が書かれた紙を置いた。
「歌詞の草案ができたから見てほしい。皆の意見も、できる限り取り入れてみたぞ」
「では、僭越ながらわたくしが……」
クリスが紙を手に取り、内容に目を通しはじめた。
「だいぶストレートな内容ですね。いろいろな恋模様が書かれているようです」
「フェスにはいろんな人間、いろんな種族が参加するだろう。なるべくわかりやすい方が、客にも伝わると思ってな」
「仰る通りかと。わたくし自身も共感できる部分や、恋の知らない一面を学ぶことができました」
興味を惹かれたティセが、紙を横から覗き込む。
そこには『恋は甘くて食べ飽きない』とか『溶岩のような熱い恋心』といったストレートに愛情を伝える言葉が並んでいた。
「クリスの反応も理解できます。大勢の人の前で歌うには、勇気が必要そうです」
ティセが喋りながら読み進めていくと、ある一文が目に留まった。
「もしかして、『穏やかな日差しが心を包む』のくだりは、私の意見を取り入れたのですか?」
「それは秘密じゃ。誰がどんな恋心を抱いているか黙っておく約束だからな」
シャロンが茶目っ気たっぷりにウィンクする。ティセは自分の意見が正しかったことを確信しながら、改めて歌詞に目を通す。
すると、恋は甘くて~のところはクリス。溶岩のような~のところはウィルの恋心だと想像がついた。
5人の恋心が詰め込まれた歌詞を見ながら、ティセはじっと考える。そして自らの羞恥心に蓋をしながら視線を上げた。
「一度、全員で音読してみませんか? 口に出すと、より歌詞の意味やリズムを理解できると思います」
ティセの提案に全員が頷き、歌詞を噛みしめるように音読し始めた。
真っ直ぐな歌詞に引っ張られるように、全員の声に熱がこもる。歌詞の全てを声に出し終えたとき、チームの雰囲気は明らかに変わっていた。
羞恥心を乗り越え、歌詞に込められた恋心と正面から向き合えるようになっていたのだ。
紙を置いたティセは、シャロンに向けて素直な感想を口にする。
「自然と引きこまれる、素晴らしい歌詞でした。きっと、私たちの想いがはっきりと描写されているからでしょう。リズムもよく、詰まることなく読み終えることができました」
「そうじゃろうそうじゃろう。我が練りに練った歌詞だからな! もっと褒めていいぞ、ワハハ!」
シャロンが得意げに笑う一方、アナスチガルはクリスに話しかけていた。
「どうしました、クリス? 顔が赤いようですが」
「大勢の人の前で恋を歌うと考えていたら、緊張してきました。フェスにいらした皆さまに、はしたないと思われないでしょうか?」
「乙女の恋を笑うような人はいませんよ。もし笑う人がいたら、わたくしがお仕置きします。こう、ペシペシッと」
アナスチガルはわざとらしく顔をしかめ、チョップを振り下ろす真似をする。そのコミカルな動きを見て、クリスは思わず噴き出した。
「ふふっ、ありがとうございます。少々考えすぎていたようですね。気持ちが楽になりました」
クリスが胸をなでおろすと、シャロンが軽く手を叩いた。
「異論はなさそうじゃし、歌詞は完成だな。ウィル、作曲の具合はどうだ?」
「大体できてる。でも、ちょっと悩んでるところがあるから、クリスに相談したい」
「承知しました。任せてください」
シャロンはアナスチガルとティセに向けて口を開く。
「我らは振り付けを考えよう。観客を魅了するような、可愛いダンスを踊りたいな」
「お任せください。エルフィンの伝統的な舞踏を織り交ぜつつ、きゅるん♪ とした可愛さを表現しましょう。ね、ティセ」
「はいっ、誠心誠意頑張ります」
女王にいいところを見せようと、ティセの答えにも力が入る。
「我らのアイドル伝説は、ここから始まる! 勝つのはチームフリフリじゃ!」
シャロンの宣言を受けて、メンバーそれぞれのやる気に火がともった。
歌詞を通じて1つになったチームは、フェス優勝を目指して走り出したのだった。